安全保障部会作成要請書第7本目、政府宛提出要請書13本目、昭和58年8月提出
「防衛費GNP1%枠」見直しの要請

【要請書全文】

      経過の概要と要請の趣旨

 昭和51年10月、時の三木内閣は、防衛計画大綱所定の防衛力整備に当たっては、当面、GNPの1%を超えない、という政策を定めた。これは、当時の政治経済事情を考慮してのことであろうが、その後、世界情勢も国内事情も当時とはかなり異なってきているにもかかわらず、それ以降の内閣も、この1%枠を踏襲し、あるいは固執してきたことは、別紙「防衛計画大綱の早期達成と見直しの要請」に記したのと同じ事由で、非現実的・非合理的と言わざるを得ない。
 しかるとき、総理が、昨年末の衆議院予算委員会で、この問題につき、(1)1%枠を守る努力をするが、限界が来れば1%突破も止むを得ない。(2)その場合には、事前に、国民に対し説明し理解を求める。(3)1%に代わる新たな歯止めが必要だが、現時点では、それはどういうものになるか分からない、と発言せられた。
 私どもは、以下のごとき理由から、この1%枠に固執することが非現実的となった今日、この枠を取りはずし、あるいは別途に、良識ある学識経験者・専門家による委員会を組織するなど、早急に、新たなる合理的な基準を設けられるよう、ここに要請する次第である。


      要 請 の 理 由

1、毎年の防衛支出の額をどう定めるかは、国内事情ばかりでなく、世界的趨勢、同盟国との関係、具体的な周辺の軍事情勢などを睨んで、その時々の政府が決定すべきものであって、本来、過去の内閣の国会答弁に固執したり、単に数字的にGNPとの比率だけで、判断されるべき性質のものではない。

2、もし、1%枠に縛られるとすれば、政府公約の防衛計画大綱所定の防衛力の整備は不可能となり、この1%枠の固執は、防衛計画大綱の精神と大きく矛盾することになる。
3、わが国においては、すでに「軍事大国とはならない。自主防衛に徹する」との国の政策が固まっており、国民一般もこれを支持している。こうした朝野の意志こそが、防衛費の歯止めになっていると言え、その点で、ことさらに数字をあげて、それに固執する必要はあまりないと言える。

4、昭和32年制定の〈国防の基本方針〉では、「国力・国情に応じて、自衛に必要な防衛力を漸増整備する」と定めており、しかも、当時は、米国より装備の無償供与がかなりあったにもかかわらず、なおかつ、防衛費はGNP対比1.4%であったことも想起されたい。

5、米国、西欧諸国の防衛費は、昭和57年度の防衛白書に記されているとおり、GNP対比最高5.5%(米国)、最低1.7%(カナダ)である。世界第二の経済大国となったわが国が1%以下というのは、あまりにも低率にすぎ、これでは、西側諸国より非難を受けるのは当然である。また、それは、西側諸国との結束を乱すことにもなり、結局は、わが国の独立と安全を危くすることにつながる怖れなしとしない。

6、昭和57年初頭、日本工業新聞が、財界首脳にアンケート調査した結果では、わが国の防衛費について、「GNP1%以上2%位までが必要」という答えが、全体の4分の3を占めていた。良識ある多くの国民も、おそらく同程度の認識を持っていると思われるが、政府におかれても、以上のごとき理由を国民に知らしめる努力をされ、よろしく蒙を啓くべきである。

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