安全保障部会作成要請書第8本目、政府宛提出要請書14本目、昭和58年8月提出
「非核三原則」見直しについての要請

【要請書全文】

      経過の概要と要請の趣旨

 「わが国の憲法は、自衛の範囲なら、核兵器をも保有することを禁ずるものではない」というのが、これまでの政府の解釈である。それにもかかわらず、昭和43年に、佐藤内閣が、核兵器を、作らず、使わず、持ち込ませないという、いわゆる「非核三原則」を表明して以来、歴代内閣は、国民の核に対する特殊な感情や野党の反対意見を尊重してか、引続きこの「非核三原則」の遵守を言明して今日に及んでいる。
 それに伴い、わが国では、大型の米艦が日本に寄港する場合などに、しばしば「米艦は核を積んでいるか」が問題となり、国会などでも論戦が絶えない。これにつき、政府は「核持ち込みについては、今まで、米国から事前協議の要請があったことはない。したがって、これは、米国が一度も日本へ核持ち込みをしていないことを意味する」との見解に終始している。
 私どもは、領土内持ち込みはともかく、領海通過や一時寄港の場合の「核持ち込み」については、後述する理由からも、その認定が、実際上きわめてむずかしいことから、旧来の「非核三原則」に立つかぎり、政府答弁によるほかなしと、これを支持する一方、旧来の「非核三原則」は、後に掲げる理由のように、数々の不合理性・非現実性を有しているほか、いたずらに反政府運動、反米闘争に利用される弊害もあるので、この際、政府が、「非核三原則」を見直すとともに、こうした実情を国民によく知らしめるべく、確固たる政治指導をされるよう、ここに要請する次第である。

      要 請 の 理 由

1、核兵器の保有状況や所在については、米・ソをはじめ世界の核保有国はすべて、戦略上、明言しない方針であり、また、それを明言しないからこそ相手を畏怖せしめて、相互に核抑止力の効果をあげうる、という性格のものである。このことは、核問題の前提として、まず、しっかりと認識しておかなければならない。

2、1の前提に立つとき、われわれは、実際上、米側から通告がある以外には、米艦が核を積んでいるかどうか、全く知ることができない立場にあることを、白覚しなければならない。
 この点で、政府の「米国からこれまで一度も事前協議がなく、したがって核待ち込みはないと解する」という答弁は、是認されなければならない。性格上明らかに出来ない事柄はそのまま認めるのが現実的であり、また、米艦が核を積んでいるかどうか分からないということが、即、抑止力になっていることも考えなければならない。

3、また、いわゆる日米安保条約を結び、米国の核の傘の下に、現実に安全を保護されているわが国が、「非核三原則」を唱えて、なかでも米国の核搭載艦の領海通過や寄港を拒否するということは、いかにも現実性を欠き、矛盾している。

4、軍艦は、一般に、その所属国の領土の一部と見なされており、不可侵権を待つので、仮にその軍艦が核兵器を搭載して領海通過ないし寄港しても、それは、日本領土への核待ち込みにならないと解せられる。

5、さらに、軍艦は、国際法上、他国へ害を与えないかぎり海峡通過などの領海通行権、すな わち「無害航行権」を認められているので、安保条約などに基づいて領海通過や寄港をする米艦に対し、単に「核を積載している」という理由でこれを拒否することは、国際慣習に反するものといわねばならない。

6、実際問題としても、そうした不可侵権を持ち、無害航行権を持つ外国軍艦に対し、臨検等によって核の有無を確かめることは、わが国の国力ではとても無理な話である。

7、なお、日本周辺の軍事情勢の変化にも着目しなければならない。ソ連は、近年、強力な核ミサイルSS20をシベリアに配備したが、これに対応するには、一方では、わが国が、米・西欧諸国と固く団結して、ソ連を軍縮交渉のテーブルに引き出し、シベリアのSS20を撤去せしめるよう努める(これは、総理がすでに試みられている)とともに、他面、そうした核軍縮交渉が成功するまでは、シベリア配備のSS20に対抗するためには、軍事的にみて、米国の艦載巡航ミサイル、トマホーク以外には対抗力がない実情から、日本が、あまり強硬に、トマホークを積載した米艦の領海通過あるいは寄港を拒否することは、戦略的に好ましくなく、それはかえって日本の防衛を弱体化せしめることになることを、政府は、この際、国民に理解してもらうよう努めるべきである。

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