安全保障部会作成要請書第16本目、政府宛提出要請書33本目、昭和63年10月提出
世界情勢の変化に応じ我が国の安全保障を見直して頂きたき要請

【要請書全文】


  要 請 の 趣 旨

 戦後40年にわたり、世界は、米ソの二極構造の下でそれなりに均衡を保ってまいりました
が、近年、両国の経済力が低下してきたこともあって、いま経済、政治の面で、多極化の様相が現れてきております。安全保障に関しては、現在なお米ソの二極構造が支配しておりますが、このままでは、いずれ近い・将来、その二極構造も弱まり、やがて多極化する方向に行くものと思われます。
 このように時勢が変化するとき、混乱や危険が生ずるのは歴史の示すところであり、米国では、2010年までをとらえた長期の国家安全保障戦略の研究が行われ、本年1月、レーガン大統領に報告されたことは、御承知のことと存じます。
 日本も、こうした時勢の変化に即応できるよう、安全保障について根本的に見直す必要があり、その時期に来ていると思います。
 いま世界は、大きく動こうとしており、わが国も、内政面では行政改革、教育改革、そして税制改革と、時代に即して改革に取り組んで来ておりますが、もう一つ忘れてはならないのは、国の存立に直接関わる「安全保障」の問題であります。
 なにとぞ、以下の「要請の理由」をお読みいただき、二極構造から多極構造へと移行する世界の情勢の変化に即応できるよう、わが国の安全保障の在り方を根本から見直す作業にとりかかっていただきたく、早急の御措置をお願い申し上げる次第であります。


要 請 の 理 由


一、米ソ二極構造から多極化構造への趨勢
 戦後、不変と考えられてきた米ソ二極構造は、まず経済面から崩れつつあり、いまや米国は、世界最大の債務国となり、ソ連また経済が悪化して、国民生活が窮乏していることは周知のところであります。これに対し、ヨーロッパでは、ECが大きく力をつけてきており、アジアでは、日本の経済大国化は言うに及ばず、韓国、台湾などいわゆるNIESの台頭がめざましく、また、中国は、経済的には後れを取っているものの、逐次大きな政治的発言力を有してきております。まさに、アジア太平洋時代が始まりつつあると申せましょう。
 かくして、時勢は、経済面・政治面で、これまでの米ソ二極構造から、多極化の時代へと転換しつつあり、軍事面では、なおしばらく米ソの強力な二極支配が続くと思われるもののこのままでは、米ソともしだいにその影響力が弱まり、米ソの二極構造による世界の安全保障体制が崩れる傾向がみられます。

二、多極構造化から来る危険性
 この米ソ二極構造から多極構造への趨勢は、下手をすれば、世界にいわば「戦国時代」を招来しかねず、経済的・政治的に大国となった我が国としては、自国の安全とともに、世界の平和のためにも、いまから、多極構造化を念頭において今後の対策を立てるとともに、安全保障についての基本方針を再構築しておく必要があります。
 けだし、世界の人々は、恒久平和を望んでいるものの、現実には、イデオロギーや宗教、人権問題、権力欲などから、世界各地に紛争、内乱、戦争の種は尽きず、ひとたび対立が起これば、ソ連のアフガニスタン侵攻、カンボジヤ紛争、イラン・イラク戦争のように長期化する傾向もあり、これまでは、核を使わぬ戦争であったが、将来、核拡散が進むようなことでもあれば、多極構造化して大国の睨みが弱まることと相まって、地域紛争などで、核の危険が現実のものとならないとも限りません。
 特に、多くの日本企業が海外に進出し、莫大な海外資産を待ち、海外で生活する日本人が世界の全地域に拡がっている現状では、日本人が現地の紛争、内乱、戦争に巻き込まれる危険も多く、従来のように、国内だけの安全を考えておればよい時代ではなくなっております。

三、求められる日本の役割
 日本はこれまで、戦後の日米関係、憲法等の事情から、安全保障の主要部分をアメリカに依存し、経済面では繁栄してきましたが、我が国が、全世界の10分の1を上回るGNPを持ち、世界一の債権を有する経済大国となって、国際社会の重要な地位を占めたいま、安全保障体制において、いつまでも過度にアメリカに依存しておられるような情勢では、もはやなくなってきております。
 経済面ではすでに、日本たたきが始まっており、日本の安全保障問題についても、いずれはっきりと政策の変換を求められるでありましょう。これまでのように、アメリカなどから責められて腰をあげるのも一方法とも言えますが、それでは余りに自主性がなく、竹下総理も折りにふれて言われるように、「世界に貢献する日本」としては、安全保障についても、「世界に貢献する日本」としての、基本方針を打ち出し、積極的に世界へ示すべきときに来ていると思います。

四、わが国の安全保障の早急な見直し
 以上述べた、米ソ二極構造から多極構造への変化、それに伴う危険性、求められる日本の役割などを考えるとき、我が国の安全保障について根本から再検討すべきであり、たとえば、多極構造化の中で、我が国自身の安全をどう考えるか、国際連合体制にいかに協力するか、あるいは、日本はどういう形で世界の安全保障に貢献すべきか等々、そうした基本方針から具体的な政策にいたるまで、わが国の安全保障の在り方のすべてを、組み立て直す必要があると考えます。
 そのためには、安全保障に関する国のあらゆる既存の機関をして、早急に研究に着手せしめるとともに、こうした基本的な諸課題を検討するため、専門家を結集して、例えば「安全保障再検討委員会」(仮称)といった機関を設置することも、また必要であると考えます。

以上、要請申し上げます。

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