政治経済部会作成要請書第1本目、政府宛提出要請書41本目、平成元年12月提出
土地政策についての要請

【要請書全文】

要 請 の 理 由

今日、わが国における土地こ社宅問題の深刻化は、日本の経済社会の発展全体に重大な暗影を投ずるものである。住宅は、人間の生活にとって、最も基本的、かつ不可欠な生活の基盤である。日本経済は、これまで目覚ましい発展を遂げてきたにもかかわらず、国民が真面目に働いても一生涯満足な住宅を手に入れることさえできないような状態では、国民の希望も活力も消え去らざるを得ない。
 土地・住宅問題の解決こそは、現在、わが国が抱える重大な課題である。この問題の解決なくして活力ある日本経済の維持も、今後の日本経済の繁栄も望むことはできない。
 この度、ようやく前国会から継続審議となっていた「土地基本法案」が衆議院で修正可決され、参議院に送付された。
これにより同法案の今国会成立がほぼ確定的となったことは、まことに喜ぶべきことである。参議院に送付された法案の審議を与野党協力して、一目も早く成立させなければならない。
 しかし、「土地基本法案」が成立すれば、それで土地問題が片づくわけではない。同法は、土地利用に際しての土地の公共性を強調する理念の宣言法であって、具体的な規範力のある法律ではない。したがって、同法案が成立しても、これは土地対策の出発点にすぎない。
 問題は、これから、政府が同法をテコにどのような思い切った土地対策を実行していくかということである。政府は、同法の理念に沿って、土地関連の法制や税制の見直しを早急に推進すべきである。
 われわれは、土地・住宅問題は、決して解決不可能な物理的問題ではなく、必ず解決しうる、という確信の下に、政府が一大決意をもって当面、次の提案を実現に移し、国民の期待に応えられるよう要請する次第である。

  提      案

一、「土地は公共財」の認識の確立  わが国においては「土地は公共財」という意識が極めて希薄である。そのため土地については、「絶対的土地所有権」の考え方が支配し、土地の利用ということよりも、土地の所有ということが優先してきた。憲法第二十九条(財産権)の内容もそのように解釈されてきた。しかし、今日、先進国では、土地所有権は所有よりも利用の面が優先し、土地所有権については「相対的土地所有権」という観念が支配している。昨年六月、土地臨調は、日本の「絶対的土地所有権」の下でも公共介入が必要であり、それなくしては土地問題の解決の困難なことを明らかにしたが、このたび「土地基本法案」に「土地は公共財」の理念がとり入れられたことは、まさしく今日の時代の要請に沿うものであり、その意義は大きい。われわれは、土地の所有権については、これまでの考え方を根本的に一新し、土地についての意識革命が必要であると信ずる。政府は、土地が単なる一般的商品ではなく、公共性・社会性を持った特殊な財であるという認識を国民に周知徹底させるとともに、土地の有効な利用を図らなければならない。

二、土地の有効利用政策として

 (1)三大都市間の市街化区域内農地に対する長期営農継続農地制度の廃止と宅地並み課税の徹底により、農地の宅地転用を図ること。
 その理由は、@市街化区域内において、農地が、わずかな固定資産税しか支払わない上、相続税の納付についても猶予されるなど、大きな恩典が与えられているのは、社会的、経済的にみてきわめて不公平である。A現在 の都市内農地の低課税制度は、土地の非効率な使用を奨励しているようなものである。B現行制度では、営農意思の確認はなおざりにされており、農家を必要以上に優遇することによって、宅地供給を阻害している。C農地の宅地並み課税は、日米構造協議において、米が強く求めているところであり、日米経済摩擦緩和のためにも望ましい。
 以上の理由からして、地方自治体は、保全すべき農地とそうでない地域との線引きを明確に再区分した後、現行の長期営農継続農地の認定制度は撤廃すべきである。
 また、保全農地指定内では転用規制を強化するとともに、相続税納税猶予制度の適用も見直すべきである。
 なお、この実施にあたっては、総合的都市計画および土地利用計画を策定しなければならない。けだし、無計画に実施すると、不動産業者の手で細分化され売却され、地価の安定に役立たず、また、土地の供給は増えても、無秩序な市街地の乱開発や虫食いを招く結果となるからである。

 (2) 三大都市圈の低・未利用地に対する特別土地保有税の強化により、土地の供給の増加と土地の有効利用を促進すること。
 三大都市間では、工場跡地や空き地など低・未利用地を所有する企業二個人、および奥地を所有する農家の双方に、適正な税負担を求めることが公平な措置であり、それか、土地の供給増加と土地の有効利用に役立つ。

 (3) 土地の投機的取引を防止するため、所有期間が二年以下の超短期の土地譲渡所得に対する重課制度はさらに五年間延長し、売却益への課税強化を継続すること。
 譲渡益に対する超短期重課は、今年度(平成元年度)末で期限切れとなるが、これは今後五年間は延長して、悪質な投機的取引による土地転がしを防止すべきである。

 (4) 固定資産税の強化、相続税の見直しを行い、土地の有効利用を促進すること。
 現行の固定資産税軽課は、土地の有効利用を著しく阻害している。土地の有効利用を促進するには、固定資産税を引き上げ、相続税を見直す必要がある。
 ただし、その際、住民税の軽減を行うと共に、小規模の土地所有者に対しては特別の排泄を考慮すること。

 (5) 国公有地の売却は、地価の上昇につながることのないよう十分留意すること。
 土地取引は、地価公示法で、周辺土地の公示地価を指標として行うよう努めなければならないと定められているが、会計法では国有財産の処分は最大利益をもたらすよう行うのが原則となっている。このため、これまで公示価格の二倍、三倍という高い価格で売却されることがあった。しかし、これでは地価公示法か死文化する恐れがある。今後は、こうしたことの起こらないようにしなければならない。

 (6) 監視区域制度を強化すること。
   国土利用計画法に基づく届け出対象面積は、東京都および周辺各県の場合、100平方メートル以上となっているが、この限度はさらに引き下げ、最近における地価上昇傾向の抑制を図るべきである。監視区域制度については、そのマイナス面を強調する向きもあるが、現時点においては、この制度を強化し地価の沈静を図る必要がある。今後は、この制度の弾力的かつ機動的運用が求められる。

 (7)  生活を営む唯一の土地・建物に対する相続税についての一案。  なお、現行では相続税が高額なため、一たび相続が発生すると、相続人は、相続税を払うことができないことから、土地・住宅を手放なさざるを得なくなり、相続人の間に紛争を生じたり、一家離散したりする悲惨なケースが続発してきている。
 これについて、私どもは、相続税を払えない相続人は、その土地の所有権(底地権)を国に引き渡して、その金銭換算相当分につき、相続税の支払を軽減ないし免除してもらい、以後、相続人は国の所有地の上に借地権を持つ、という制度の創設を提唱したい。そうすれば、相続による一家離散の悲劇も見なくてすむと考える。
 そのため、国は、相続税収入は減るが、地代収入が上がり、国有地も増える(管理は信託会社に委託する)。
また、のちに借地人(相続人)がその借地権を処分する意志を表示すれば、場合により、国(国より委託をうけた信託会社などの機関)が、その借地権を買い取り、公示して、その土地の所有権ないし借地権を他の希望者へ合理的な価格で処分すれば、国は決して損はせず、また、一般庶民も、国から合理的価格で土地・建物を購入することができる。そうすれば、相読者も、国も、新しい土地購入希望者も、それぞれ三方利益し、かつ土地の価格も(国有地であるので)合理的な線に押さえる一助ともなり得る、と考える。
国は、土地基本法に従い、以上の土地対策を早急に推進すべきである。地価の適正化、宅地供給の拡大などのため、これらの有効な政策を打ち出さなければ、土地基本法の精神にも反することになる。よって、我々は、右の土地対策の実現を強く要望する次第である。

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